俺のオリジナルに刃を突きつける。



俺の下に居るのは、誰だ。
何故俺と同じ顔をしている。
どうして、俺は、こいつの首に刃を当てているのだろう。




混乱する。あぁこれは夢なのか。現実なのか。


















あの時初めて対峙した時の様に、どしゃぶりの雨が降っていて体に纏う服が水分を含む。
判らない。
どうして、俺は。そう聞いても、答える人なんていない。
ジェイドも、ガイも、ナタリアも、ティアも、アニスも。



今は居ない。






(なら、今こいつを殺してしまえば。)






これは、夢なのか。現実なのか。

判らない。
確かに体は、雨に濡れて冷たいのに
俺を見上げるアッシュの視線は痛いのに



俺の瞼はこんなにも熱いのに。




現実なのだと、認識しても。本当に現実なのかが判別できない。


この世には、不思議な事が一杯あると、誰かが教えてくれた。


なら、これは、己に都合のよいリアリティある夢なのかもしれない。




雨に紛れて、消されている涙もきっと、ただの幻だ。






そうだ、アッシュを殺したら、俺の存在は確定される。


こいつが居なければ、俺はルークで居られる。


<ルーク>が居なければ、俺は生まれなかった。
そしたら、こんなにも辛い事なんて起きなかった。



ずっと、ずっと考えてきた事が溢れ出す。
俺は、換わり。こいつの換わり。捨てる事の出来る、ただの物









押さえ込んだ彼は、動かない。
ただ、こちらをじろりと睨みつけている。

その視線に込められているのは
明らかな侮蔑だ。


その、熱く滾る様な憎しみの視線を感じて、俺の手のなかに有る剣は更に首元に近づき、肉を押しやる。

ぷつりと赤い点幾つも出来ては雨で流される。
本来、己達と同じ赤は薄い朱色に変化を遂げる。



確かに同じモノだった筈なのに、ただ水を含むだけで色を変えてしまう。
(その色はまるで俺の髪と同じだ)






少し力を加えただけでも、アッシュは息絶えるのだ
心の底に沈殿しては浮かんで来ない様にしていた想いが俺の中の感情を浮上させる









「どうした、レプリカ。俺を殺すのか!」

あぁ、憎い。憎い。
その言葉も何もかも、俺をただ、痛めつける。



「・・・何も知らないくせに・・・!」

ただ、叫んだ。何も知らないルークに。

「お前が居たから、俺は生まれたんだ!」

ただ、言いたかった。自分の中に溢れてどうしようもない言葉を。

「お前が居たせいで、俺は造られたんだ!拒否権なんか無かった!ただ、造られた!!!」

お前のようなオリジナルに何が判る。自分は人間だと、言い聞かせて生きなければいけないモノの気持ちが

「信じて居たものすら、何もかもが俺を見てくれなかった!」


お前がルークだなんて言うから。俺を俺だと見つめてくれる人は居なくなった。

「俺がお前の居場所を奪ったんだろ・・・?なら返すから・・・・」



だから、だから。


「だから、俺の居場所を奪ったお前も、俺に返してくれよ」



なぁ、どうして俺は俺な筈なのに。俺はお前なんだ。

お前は俺なのに、お前はお前で在る事が許される?



俺はお前になる事なんて出来ないのに、お前はいとも簡単に俺になれるんだ





「なぁ、アッシュ。これは夢なんだろう?でもなんでなんだろう・・・・感触も感情も何もかもが、鮮明なんだ。
どうして、俺は此処に居るんだろう。なぁ、アッシュ。お前も何でこんなところに居るんだろう?
一体、此処は何処なんだろう。なぁ、アッシュ。教えてくれないか。俺は人間じゃないのか?なぁ・・・俺は造られたレプリカなのか?」


ゆっくりと、押し倒していたアッシュから離れる。



「・・・・ふん。お前は・・・・」








今先ほどまで当てられていた刃を、自分自身に向ける。


何かを言いかけていたアッシュは言葉を止めて目を見張る









自分に向けた刃先をルークは指でなぞる。その指先を刃先で斬ったのか、そのなだらかな曲線を朱が流れていく
雨に混じってそれは、赤ではなく朱に変る。




「ならどうして」
雨音に掻き消される事も無く、強くその声は響く。



「ッおい!!」間に合わない制止の言葉




振り上げられる刀身



「俺の体には、血が流れているんだ!!!」


辺りに広がる俺の髪と同じ朱






















これは夢なんだ。だから確かに痛くても、この痛みは幻なんだ。

澱む意識が捕えた駆け寄る仲間の姿と、立ち尽くすアッシュ





「どう、して・・・・皆がいるんだ・・・・」



これは夢?それとも現実なのだろうか。





(何を言っているんですか!)
(早く手当てを・・・!)
(ルーク!どうしたんだ、ルーク!!)



聞こえる声がとても遠い。霞む意識、途切れる声
















「あぁ・・・・これは夢・・・じゃないと皆が悲しむはずが、無い・・・・」


少年叫び悲しみだ。
その
哀しみ誰も、気付けない。
彼は知る。己自身が被害者だと思っていただけだと。
彼等は知る。彼は誰も信じていない。いや、信じる事が出来ないのだと。
そして、気付くのだ。自身すら気付かなかった、自分の犯した過ちに。