あの後、ルークは俺に気付く事も無く去って行った。
その足取りは頼りなく、押してしまえばそのまま地に伏せてしまいそうな位弱弱しい。





呆然と立ち尽くす。
辺りには死臭。

散らばる死の光景にも目もくれず、血の道を残しながら、ルークは離れていく







自分の命を狙ってきたとはいえ、あの惨状は余りにも酷かった。

人間であっただろう、物。なのだ。
原型を留めるものは殆ど無かった。



抉れ、溢れ、流れる。



そんな中に、ただ佇んでいたルーク。













あれはルークか。
(違う。あれはルークじゃない)
(いや、あれは間違いなくルークだ。)

否定しては、肯定の繰り返し



哂っていた、泣いていた。噛み合わない光景に頭が混乱する













ポタリ、ポタリと被った血を気にする事も無く祈り続けるルークを凝視しては、駆け巡った思い



祈る彼が、あまりにも悲しくて



血の中に佇む彼が、自分と被ってしまう




(違う、俺は殺してはいない!)
(いや、結局殺したのと同然だ。)


匿われ、ただ、怯えて。

甦る記憶。流れ出す、あの映像。



逃げ惑い、恐れ、立ち向かった、愛しい人達の姿。



その結末は、血腥いものへと、姿を変えてしまったけれど。





どこからともなく、憎しみが沸く
でも、この憎しみが何に向かってのモノなのかが判らない。


どうしようもなかった己自身への怒りか、それとも彼への憎しみなのか








俺はカチャリといった音で引き戻される
己でも気付かぬ内に、剣の柄を握っていた












意識とは裏腹な行動。
自分が意識していない、無意識下で俺は・・・・ルークを殺そうとしていた・・・?





嘘だ・・・これは何かの間違いだ。
必死に動揺する気持ちを落ち着けようとする





けれど、何度も離そうとしているのに、俺の手は柄を掴んで離そうとしない







視界に入るそれ。
人であっただろう、物。
必死に逃げ惑ったのだろうか、断ち切られた腕は必死に草を掴んでいた。




浮かぶのは、過去の惨劇

見ただろう。
あれは守る為なんかじゃない。


「・・・違う。こんなのじゃぁ、ただの殺戮でしかない」









俺は、あんなルークを求めていない。



あんなルークは、要らない









ハッとする、なんて事を考えているのだ。これじゃぁ、俺はヴァンと変りないじゃないか。

俺の中のルーク像を作り上げて、それにそぐわなければ要らないだなんて、結局は物のように扱ってるんじゃないか!!

こんな、俺がヴァンと大差あるだろうか。







その事に、酷く打ちのめされる
目の前が真っ暗になるというのは、こういった状態なのかもしれない






(俺の決断は間違いなんかじゃないはずだ・・・・)

揺らぐのは、心。






















あれから、何かが変るなんて事はなかった。
表面的には、いつもと同じ。


急激でも、緩慢でもない、普通な日常が流れていくだけ。


その実、俺とルークとの関係は変ってしまった(そう思っているのは俺だけかもしれないけれど)




俺はルークを必然的に視野に入れるようになった。
以前とは、変わり無い様で、実際は違う。


これは、監視だ。



ルークを見守るといった肩書きを騙る、ただの虚言でしかない。


俺には選ぶ事が出来る。


変ってしまったのかもしれないルークを受け入れる事をせず、斬り捨てるか

自分自身の中で作り上げているルークじゃないと受け入れる事をしようとしない、俺を撃ち殺すか





そのどちらかを








右手には剣 左手には銃を
選択するのは二つだけ。死ぬ事か殺す事。俺はどちらを選ぶのだろう?