久しぶりの野営で、ひと段落着いた時、ふらりと、ルークが歩いて行くのを見かけた
いくら、ルークが戦い慣れしていたとしても、もし魔物に囲まれたりしたら大変だ。それでなくても、今の彼はとても不安定。
精神的にも、肉体的にも。
そんな彼が心配だなんて、死霊使いと言われていた私も、彼の変化と共に、変っていったのかもしれない
火の用意を、残りの者達に任せ、後を追うことにする
近くに居た、ガイに声を掛け「少し、外します」と矢継ぎ早に告げる。
彼にはそう伝えるだけで通ったようだ。
本来ならば、私を行かせるよりも、ガイ本人が行ってやりたいのだと思う。
だが、今ガイが行けば、ルークは気を使ってしまうだろう。
それを理解しているからこそ、我慢をしている様だった
『・・・無理矢理にでも、行けば・・・ルークは嬉しいのだと思いますが・・・』
それなのに、ガイは遠慮する。
きっと、復讐の事も彼の中では尾を引いているのだろう。
ヴァンと手を組んでいた事への後ろ暗さ、復讐の為の道具と結局はヴァンと同じルークを物扱いをしていた事に
後ろめたさを感じている。
たとえ、ルークが許しを与えたとしても
「・・・頼む」
そう聞こえたのは、聞こえ間違いなんかじゃないだろう。
少し歩いた先に、小高い丘があった。そこには木も何もなくて、星と音素帯の煌く夜空と
辺り一面の白い花に芳香の立ち込めるその中にルークは佇んでいた。
『確かこの花は・・・・』
「なぁ・・・・俺は嬉しいんだ」
一体、誰に喋りかけているのだろう、もしかして、追ってきた自分に気付いているのだろうか・・・と思ったけれど
ルークの発言でそれは杞憂に終わる
「ローレライ・・・俺さ、やっと返す事が出来るんだ」
ルークはローレライに語りかけていた。彼は、ローレライと同じ第七音素で出来ている。
それゆえ、以前も声を聞いたことがある。と言っていたことを思い出す。
「居場所も、想い出も、幼馴染も、親友も。家族も、何もかも・・・アッシュに返せる」
ガイがこの場所に来なくて良かった。この言葉を聞いてしまえば彼なら、黙っている事は出来ないだろう。
ルークに負担を与えると判っていても問わずには居られないだろう。
適材適所、そんな言葉が脳裏をよぎる
「俺、死にたくなんてないんだよ。ローレライ。でも、死にたくないって言えないんだ。」
耳を塞ぐ事は出来ない。判っている
彼を何も言えない、胸の内に潜めさせる事を覚えさせてしまったのは自分達だ
冷静さを失うというのは、酷く恐ろしい事だ。
冷静さを失った時に放たれる言葉には、毒が混じる
そんな毒を彼は体中に浴びてしまった
そして、その毒を解毒する人間は回りには居なかった。
誰も。
その責任は負わなければならない。
誰が、悪い。誰一人が悪い訳ではないのに、怒りを向ける矛先、苛立ちを向ける矛先を
ただ、一人の子供に向けてしまった
己たちに罪は無かったのかと、問われれば即座に「ありません」と言えるようなことは出来ないのだ
自分達にも罪があったと自覚したのは、彼が変わると宣言して暫くしてからの話
それでも、私たちはこの世界を修正しなければいけない。預言を無くし、この瘴気を無くさなければいけない
そしてこの世界の為にと、一人で胸のうちを零すことしか出来ない子供を生贄にするのだ
考えても、結果の出ない思考を断ち切るかのようにして
「ルーク、いい加減に戻ってきなさい。明日に差し支えます」
立ったまま、星の煌く空を見つめる彼に声を掛ける
了承の声を聞いて、彼がこっちに歩いてくるのを待つ
歩きながら、彼は私に教える
「ジェイド、この花の名前知ってるか?月下美人っていうんだてさ。・・・綺麗だよな。なんか、でも悲しいな。」
「そうですか。」
「そうなんだよ」
じゃぁ、戻るわ。
呟いて、野営をしている仲間達の所に戻ったルークの後姿を私はただ見ることしか出来ない
どうして、彼がそんなことを言ったのか、詮索してしまう
「一夜限りの命だからですか・・・」
何も言わない、そして言えない自分の不甲斐なさに苦い笑みがこぼれる
一夜咲いて、朝には散る花
そんな場所で、彼が何を思っていたのかなんて、自分には到底考えられなかった
この花よりも儚い
死霊使いという名も強ち、間違いじゃない