ガイが、ティアと笑い合っている
ガイが、ティアを見ている
ガイが・・・・
「・・・これで良いのに・・・」
零れた言葉は、あまりにも切ない響きを纏っていた
ずっと、自分に付いてきてくれたガイ
そして、ずっと自分を裏切り続けてきたガイ
こんな叶わない願いなんて、持ちたくなかった。
ガイが好きだなんて、気付きたくなかった。
ガイを好きだと判ったのは、いつ頃だったのだろう。
ガイに持っていた俺の独占欲
それは、ただ好きな人を独占したいだけの醜い感情だっただけで
その事実に、気付いてからは、ただ想いは増幅して嵩を増すだけだった
そして、ガイを好きだと知ったからこそ
ガイの視線が常に誰に向かっているのかも知ってしまった
知る必要なんてなかったのに、判りたくなんてなかった
(どうして!!もう俺は消えちまうのに・・!!!どうして・・・?)
休憩している中、食事を作っているティアの傍で、ガイは忙しなく動いている。
二人がいる空間だけ何故だか、とても明るくなっているような気がする
それはまるで、恋人みたいな
とても、とても・・・楽しそうに微笑みあって・・・・
「・・・・っ」
じゅくりと、胸の中が膿んだ気がする。
酷く痛みを伴った、何かが
ガイを好きだと理解し、自分にその視線は向きはしない、ましてや自分の先に待つのは消滅だけなのだと理解したその時にも感じたのと同じ
じっくりと、そして確実に腫れ上がる傷口の感覚
熱を持って孕んでいく痛みの感覚を感じたのと同じ感覚が襲って、この出来損ないの心に膿が溜まっていくのを感じた
汗が額を伝う
(こんなの・・・最低だ)
自分の中に出来上がる不鮮明で、意味のはっきりしたその感情に気付いて
そんな自分に、動揺する
これ以上この場に居るのは不味いと、座っていたその場所からそろりと立ち上がって皆に背を向ける
「おや、どうしたんですか?」
目敏く立ち上がる俺を見つけたジェイドが然もな気に問う
「あぁ。少しな」
これ以上は聞くなと、詮索はするなと、告げたつもりだが伝わっただろうか
アニスや、ナタリア、勿論ティアも、ガイも俺が立ち上がった事には気付かない
「・・・なるべく早く、戻ってらっしゃい」
「おうよ。」
いつものように、答える。
そして、ジェイドも何も聞かないで居てくれる
ジェイド自身も俺のことで思うことがあるのか、此処のところ放任気味だ
(・・・まぁ、心配してはくれてるみたいだけど)
返事もそこそこに、ゆっくりと歩いて、ただ目的もなく道を辿っていく
舗装もされていない、足場の悪い道をひたすら歩く
(ガイは、俺が居なくなった事に気付いてない。・・・だろうな)
昔なら、すぐに気付いただろう。・・・だが、今の彼は。
「そうじゃない・・・」
口に出して、後悔する。その意味は俺をただ、暗い谷底に突き落とすだけの事実。
ガイは、きっと気付かない。
復讐という名に囚われていた頃の彼ではもう無いのだ
もう、彼を縛る柵など、存在しないのだ。
いや、もしまだ存在するとしたならば、その存在は俺かも知れない
今の彼にとって、俺の存在はファブレ家を思い出させて、彼自身の過去を想い出させる
柵を取り去る事が出来たのに、その柵の理由を思い出させてしまう、俺の存在
(邪魔モノ・・・ていうんだっけ・・・・?)
沈む思考に笑いが込み上げてくる
もう、ガイは俺を視界に捕らえてくれない。昔は嫌でも捉えていたけれど、もうそれは必要ないから
歩を進めていた足を止める
急に翳りだした空を見上げると、ポツポツと雨が顔を打つ
この雨が本降りになる前に戻ろうと、思ったのも束の間、雨が大仰に振り出した
「ついてねぇ・・・」
悪態をつきながら歩いてきた道に踵を返してまた辿り出す
雨宿りが出来る場所が無いだろうかと、視線を廻らせても辺りには何も無かった
なら、雨宿りを出来る場所を探すよりも、戻る方が早いと判断する
(ジェイドに怒られる・・・・?)
その考えに僅かに頭が痛くなったが、流石に天気の予知なんて出来る筈も無くて
こればかりは仕方ない。
ジェイドもそんなに怒りはしないだろうと思い込むことにした
「怒るとしたならば、俺の体を思ってか・・・」
昔と本当に状況が変わった。
ジェイドは昔なら俺の事など、心配すらしなかっただろう。
そして・・・昔ならばこんなに雨が降っていたら、ガイが迎えに来てくれた
「びしょ濡れになるぞ」
そう困った風に笑いながら、駆けてきてくれた
「今じゃ、それは幻・・・ってな」
周りには誰も居ないけれど、虚しさをどうにかしようと明るい声を出して言ってみるが、上手く行かずにそれは失敗する
振り出す雨が体に染み込んでくるみたいに、自分の中を支配する虚無感にただ苛まれて行くだけだった
(虚しいな。でもそんなの今は考えてちゃ駄目・・・なんだもんな)
浮かぶ思考の様に、鬱陶しい雨
その雨に濡れた髪が視界を悪くするかのように、目を覆う
雨で視界が悪いのに拍車を掛けるそれが余りにも邪魔に思えて手で掻き上げようとしたその瞬間、呆然とする
あの時と、同じ様にまた
「透け・・・た・・・?」
一瞬の出来事だった。
瞬きをしたその時にはもう、向かうが透けて見えた俺の手は、元の色を取り戻していた
今日は、本当についていない。追い討ちをかける様に、こんな事が起きるなんて
泣く気すら起きやしない
水分を含んだ服が肌に張り付いて気持ち悪い。それに加えて頬に張り付いてくる自分の髪を鬱陶しげに掻き上げる
この際、手が透けようがもう、どうでも良い。そう思ってしまった。
無責任かもしれないけれど、消えるならさっさと消えてしまえ、口には出さずに噛み砕く
吐き出してしまえば楽になるのに、それを許さない何かが、最後まで口を重くするのだ
雨に濡れた髪は、意志を持ったかのように頬にかかる
その頬に張り付いた髪を辿って雨粒が流れていく
「うぜー」
その声にいつもの覇気なんてありはしない。
ただ、寂しい気に零れた言葉を、雨音が消してくれた
数分歩いていたら、やっと休憩していた場所を見つける。
どこら辺に避難しているのだろうと、視線を廻らせると、大きな木があった
俺が来ている方向とは対照的な場所でに皆で固まっている。が、アニスや、ナタリアの姿は見えない
多分、此方からは見えない裏側に居るのだろう
一番手前にいたジェイドが視界に入る
雨に足音を紛らわせて、近づいてくる俺にジェイドが視線を向ける
その目はただ感情の一欠けらも見せずにこちら伺っている
その紅い瞳が何かを思わせ僅かに、顰められた
(こういうときも、真っ先に気付いてくれたのは、ガイだった・・・)
自分の余りにも馬鹿馬鹿しい考えに自分自身を殴りたくなるけれど、自分で自分を殴ったりしたら、それこそ
変な奴のレッテルを貼られかねないから、止める
前を見据えて見ると、雨に遮られてなのか、他の何かのせいなのか
視界が酷く歪んで見えた
けれど、近づいて行くにつれて悪かった視界が近づくに連れて鮮明に開けてくる
俺の目が捕らえたのは
こちらを見つめるジェイドの姿と
未だに俺に気付かずに談笑する二人の姿
(ついてない事は立て続けに起きるもんだ・・・こんない近づいても俺に気付いてはくれないなんて)
二人の姿が、今の俺には痛いだけ
こちらをじっと見ていたジェイドが声を掛ける
「早く此方においでなさい。体を冷やすなんて・・・全く」
その声で俺に気付いたのか、ガイとティアも俺を見る
びしょ濡れになった俺を見てなのか、どうなのかガイがじっとただ俺を見つめていた
その青い瞳に映るのは、俺だけ
(また、だ。痛い・・・)
その目に俺が映るだけでこの有様だなんて、馬鹿馬鹿しくて、でも嬉しくて心が震える
「判ってるよ・・・ただいま」
ガイの瞳に驚きや、他の何かが揺れた様に思えたけれど
そんなのは俺の勝手な思い込みだろうと、ガイから視線を逸らして
手を振りながら皆の元に歩み寄って、この狂わんばかりに警鐘をならす、俺の心の音を悟らせないように
いつものように笑った
貴方に手を差し出す事しか
出来ない私
目を伏せて笑うお前の姿に
ただ動揺する俺
誰かが息を呑んだ
(雨に濡れる、彼の頬を涙が辿っているように見えたのだ
雨であるはずのその雫を、涙だと。
確信してしまった)
(何故彼は微笑んでいるのにあんなにも苦しそうなのだろうと
考えて、判らない今の自分に酷く辟易させられた
彼の考えることなら、判ると、思っていたのだけれど。)
目の前で雨に打たれる少年の笑顔は、自分が貼り付けていたものと同様だった
読みたくなくても目に入ったら困るだろうと思ったので読んでみようと思う方は
反転して見て下さい!
最後の言葉は、ジェイ&ガイの言葉
息を呑んだのは・・・(さて誰だろう?)
言葉は、どちらかがジェイドでどちらかがガイ
まぁ、判るでしょう。
でも、どちらでも当てはまるんですよね。
ジェイドは人の心を読むのに長けている。
ガイも然り
どちらでも当て嵌まって、どちらの心情でもいけるみたいな。
タイトルは、まぁ・・・私と、俺だから誰のことだか判りますでしょう
一人称って結構大きいなって思いました(笑)
ジェイドが「俺」なんて想像・・・出来ません。
ガイの、「私」はまだ、出来るんですがね。
とにかく、お二人さん混乱してまっせみたいなね。
ちなみに、ガイティアではありません。だって、これはルーク視点のお話だから!!!(ここ重要)