与えられた時間は、余りにも短い
判っている、早く決断を下さなければ世界は終わりを迎えること位。
それ位、事態は切迫していた。
でも、そんな余りにも短い時間で、正しい答えなど、正しい決断など出来るものだろうか。
それを、判っていて俺は・・・十分に時間を与えなかったのだ。
この決断で、ルークを失うと判っていながら。
王として、俺は生まれたのだから。
一人の命と、何千、何万・・・いや、それ以上の人間の命を天秤に掛ける事なんて、出来ないのだ。
王と、して、俺は。
「・・・本当に、貴方も面倒な役割を受け継ぎましたね・・・」
物思いに耽っている内に、いつの間にか傍までやってきたジェイドが俺にそう告げる。
「ふん・・・それが俺の生まれた「意味」という奴だよ」
えぇ、本当に、不必要なものを貰いましたね。そう言って、音も無く現れた幼馴染は
己の赤い眼を覆うように存在するメガネのブリッジを中指で上げる。
その行為に、あぁ、こいつも相当な馬鹿だなと、笑みが零れた。
「・・・何がおかしいんです?」自分の事で笑ったのだと気付いてジェイドは問う。
顎で、それだそれ、と指しながら「お前の癖だよ。それ・・・自分の思い通りにいかない時にする癖だ」
まぁ、気付いているのは俺ぐらいだろうが。
そう思いながら指摘する。
ジェイドは、その指摘された内容に驚いたのか、それとも自分自身すら気付かない癖がある事に驚いたのか、目をすっと細めてこちらを見る。
「・・・ふむ。やはり、そうなのでしょうか・・・」
「そうなのかとは・・・?」
続きを言えと、無言の催促をする。
ふぅ、と一間あけて、ため息をつくと、俺に向けていた目を逸らして
「・・・ルークにも指摘されました」
その返答を聞いて、次に目を細めたのは俺だった。
「貴方が、そういうならば、事実でしょうね・・・」
「そうか・・・」
そして、二人とも口を閉ざす。
二人の口を重くする「ルーク」
今、ルークの存在は余りにも重くなって圧し掛かる
大切だとか、そういった言葉で表せない程の存在。
俺にとっても・・・。そして多分・・・いや、絶対この男にとっても。
いつもは、この沈黙が心地良いと知っている。だが、今日はそうもいかなかった。
「お前は・・・これでよかったと思うか」
「・・・これしか、無かったのですよ・・・・」
知らず知らずに口から息が零れる。その行為が指すのは後悔だ
「後悔、しているんですか」
「後悔、してないように見えるか」
いいえ、とそうジェイドが告げて、また辺りに静寂が宿る。
「お前こそ、後悔しているのか・・・」
「後悔しているように、みえますか?」
そう言って、哂った。この目の前の男も相当、屈折している。
「いやぁ、本当に似てんなぁ。俺等」
「ふざけないでください。ごめんですよ、そんなの」
俺が齎すこの静寂を破る、笑い声。
「王として、貴方は最高に素晴らしい決断をしましたよ」
「あぁ。知っているさ。俺は、最高だからな」
この、決断で救われる命は多い。犠牲は最小限だ。
にやり、と笑ってやる。
そんな俺を目で射るジェイドをしっかりと見据えて
「お前も、最高に素晴らしい選択肢を授けたよ」
「えぇ、そうですね。私の考えた選択の中で最良なものでしたから」
そう言って、口角を吊り上げて笑いながら、俺を見る。
言葉の応酬。褒め称え合っているようで、包む空気はなによりも冷たい。
愚かにも程があるだろう。
「・・・だが、あいつを愛する者としては、最低以下だ」
「えぇ、そうですね」
「・・・・そして、私も、その一人です」
「くくっ・・・違いないな」
二人の顔に笑顔なんて、無い。
浮かぶ表情なんて、探せない。
「あの子供一人に、全てを選ばせたのは、俺・・・か」
「そして、私は、その理由を与えたんです」
立場に踊らされるなんて
愉快すぎて、涙が出そうだ!
「馬鹿だな」「馬鹿、ですね」