確かに、俺は、死んだ筈だったのに。
目を覚ませば、俺の体はティアと降り立った場所に立っていた
来た事など無い場所なのに、どうして、俺はこの場所をあの女、ティアと来たなんて覚えているのだろう。
手を見る。
(何も変らない)
武器を取る
その瞬間に感じたのは小さな小さな違和感だけだった。
俺は右利きだったはず。なのにどうして、剣を取る手が左手なのか
ただ、その事を漠然と受け止めて
「そうか自分は甦ったから」だと、漠然に受け止めて深く考えなどしなかった。
一歩を踏み出す、足が地を踏む感触。自分は生きているのだと、実感する。
踏み出した時に長い己の髪がゆらりと揺れて、頬を擽るのを視野に捕えた
その独特の色彩を放つ、薄い朱に目を奪われて立ち止まる。
思考が止まる。
そう、理解してしまった。
一瞬にして、だ。
その瞬間に駆け巡る走馬灯のような数多い記憶が溢れかえる。
その全ては、俺を絶望の底へと突き落とすものばかりだった。
どのようにして、アクゼリュスを崩壊させただとか、そのとき何を思っていたのだとか
自分自身の生きる意味を必死に探し苦悩していた記憶が
光の速さのように、一瞬にして、甦る。
あの、髪の色を何故俺が持っているのだとか。
どうして、利き手が変っているのだとか。
気付いてしまった。
このことがどういう意味なのかも、判ってしまった。
「っう・・・っ・・・」
急に込み上げてきた感情を抑えることなんて出来ずに、視界が涙でぼやけた。
立つ事も出来ずに、崩れ落ちる。
必死に抑えようとしてもとめどなく流れてくる涙は、地面を黒く染め上げて
俯いたと同時にサラサラと流れるあの独特な色彩を放つ髪が俺に事実を告げる。
手で、目を覆って何も見えなくしても、知ってしまった真実が事実を突きつける
そうだ、この体は、あいつのだ
この体は、あいつの、ルークのものだ
零れては、水分を含んでいく目を覆う手袋は冷たくなる。
唇をかんで嗚咽を止めようとしても、思いのほか上手くいかない。
「っ・・・・く。」
こんなことを望んだわけじゃなかった。
あの最期の時あいつを初めて認めて、分かり合うことが出来たのだ。
だから、俺が朽ちてしまうと知ったときも、あいつをただ思ったのに。
「なのにっ、どうして!!!」
地面を拳で殴りつける
未だに頬を伝って、目を熱くさせる涙は止まらない。
この涙はひょっとして、彼の、ルークのものなのかもしれない。
悲しんでいるのかもしれない。
もしかして、奪った俺を憎んでいるかもしれない。
また奪われたと。
そうだ、だって、あいつが生まれたのは俺が始まりだ。
なのに、俺はその事実から目を逸らして、あいつが俺の場所を奪ったのだと、責めていた。
でも気付いた。事実は違うのだと。
俺が、本物のルークだと周知が知った時、あいつはルークであった自分の存在というものをなくしてしまった。
周りがどんなに「お前はルークだ」といっても、彼を安心させることなんて不可能だった
そして、必死に自分たるものを作り出そうとして、あいつは見出したのに。
俺自身、その事を受け入れる事が出来たのに。
あいつを受け入れる事が出来たのに。
その存在を上書きという形で奪ってしまった。
あいつたるものを俺が奪ったのだ
「どうしてだっ!!!ローレライ!!!!」
至高たるモノに向かって声高く叫ぶ
彼に当たってもどうにかなるものじゃないなんて判っている。
でも、聞きたかった。
聞こえてるなら、どうか聞いてくれ。理由を教えてくれ
「どうして・・・・俺が・・・・ルーク・・・なんだ・・・」
ルークフォンファブレではあった。だが、俺はアッシュなのだ。
そう、自分で自分の意味を見つけたのだ。
だからこそ、ルークであった事実も認め、アッシュで生きて散ると決めた
「なのに・・・」
震える。意味も無く体が震えていく。
涙は一向に止まらず、ただ、嗚咽と涙と、無性に湧き上がってくる後悔が体を震わすのだ
「どうして・・・」
人通り泣き通しても、涙は枯れることを知らないかの様に溢れては、頬を伝う。
「ルーク・・・・」
どれだけ涙を流してもこの体を彼に還す事なんて出来ないのだ。
目を覚ませば、消えた温もり
ゆらゆら揺れる髪を、ただかき抱いて口付けても、あいつに俺の気持ちは届かない
メモ
珍しくアッシュでお伝えします。
アッシュがルークを認めてその後どう感じたのかなぁと思って書いてました。
これは、ルークの記憶を持っていても、ルークは黒くないverです(笑)