あぁ凍えそうだ。
とても寒い。
凍るよ。助けてくれ。
それは、軽蔑の視線だった。
ユリアシティで、自分自身の罪を知り、自分自身の存在の意味を知り
自分が人間でない事を知った。それでも俺は変わりたいと願った。
だから、皆の後を追う事を決めた俺は、アラミス湧水洞へ向かう
何を言われるか判らない恐怖と戦いながら
ティアとミュウと共に抜けようと辿りついた場所で待ち受けていたのは、俺の親友だったガイだ。
ガイの視線には、軽蔑の色は見えなくとも、揺らりとゆれる蝋燭の炎の様に、揺れる何かが見える。
(信じられるだろうか・・・ガイを・・・あぁ駄目だ。出来そうに、ない)
何もかもが恐怖の対象でしかなかった。
あの視線を受けた俺は、他人の好意すら偽りに見えてしまう様になっていたのだ。
微笑みながら、俺に抱きついたガイですらも、恐怖の対象でしかなかった。
(怖い怖い怖い)
必死に顔に出ないようにして、驚いたと言わんばかりにガイの体から離れる
(その温もりが俺には怖い)
当たり前の様に与えられていたものが嘘だと知り、向けられる好意も偽りだったと知った。
俺は、そう、何も知らない。そう、それは間違いない。俺は実際何も知る事無く生きていた。
昔、知りたいと駄々をこねた事もある。
けれど、「知る必要などない。お前は此処で生きるのだから」
そう言って切り捨てられた。俺はあの世界から出るはずではなかったのだ。
俺があの鳥籠の様な屋敷から飛び立つのは、アクゼリュスを救うという目的の人殺しと共に自身も殺すという目的の旅のみだった
結局、俺は生きているけれど。
ガイの青い瞳が俺を写す
(俺の顔は引き攣っていないだろうか・・・笑っているだろうか)
空の青の様に澄み渡っている瞳に写っている俺を、俺は直視することが出来なかった
(怖い、怖いよ・・・)
どうにかして、洞窟を出ると、そこに居たのは、彼等だった
そう、俺を、要らないと、認めた人達だ。
(駄目だ。怖い。怖い。怖い!)
でも、逃げる事なんて出来ない。後ろに下がっていく自分の足を必死に前に踏み出して告げる言葉
「俺・・・」
「おや、まだ眠っていなかったのですか?」
「てゆーか何しにきた訳〜??」
刺さる、突き刺さる視線。
揺らぐのは俺の目
研ぎ澄まされたその視線に、皆が同じ様に滲ませるのは、軽蔑と・・・・嘲り
(怖い怖い)
生理的に滲み出しそうになる涙を堪える
その赤い目が俺を貫く
その黒い目が俺を睨みつける
(怖い・・怖い!!!)
でも、俺は変らなければいけない。
いや、変るのだ。
冷える。とても冷えてゆく。
とても凍えそうだ。
その視線が、その言葉が、俺の心を凍らせていく
怖い、怖いよ。誰か助けてくれ。
心で叫んで、心で泣いて、でも、誰にも伝える事の出来ない言葉達
言葉に出来ない言葉達の変わりに溢れるのは
「俺、変わりたいんだ。だから、皆」
何よりも叫びたい言葉とは違う言葉
伝えたくとも、俺は告げる事を赦されていない
そう、俺は人として、認められていないから
人って、とっても怖いんだ。
俺、知らなかった
ほら、こんなにも近くで子供が泣いているのに。どうして助けてあげないの?