手を差し伸べるのは俺だった。
その先にいるのは、崖に背を向け立つルークだった
崖っぷちに立ってルークはただ、俺を見つめていた
後ろにはぽっかりと口を開けた暗闇に続く深淵があるのに
ルークはそれすら気にしないで立っていた
何故そんなところに立っている。余りの動揺に声が震える
「ルー・・・ク?」
早鐘を打つように鼓動を刻む心臓を必死に落ち着けようと勤めるけれど、やはりそうもいかない。
「ルーク・・・どうした・・・ほ、ら。早くこっちに来い。」
硬く握り締めていた、手をルークに向け開く。
この手を握れと、手を差し出す
「おいで?ルーク?」
今の俺の顔はかなり引き攣っているだろう。それでも、口角を上げ笑みを作った
「ガイ・・・」
ルークが俺へと微笑む
その笑みに意味などは見出せなかった
「大丈夫。大丈夫だから・・・・ガイ」
「なら、こっちへ・・・「来ちゃ駄目だ」」
ゆっくりと、近づこうとするとするルークは俺が近寄る事を許さなかった
差し出された手は、未だに繋がれない
「どうしたんだ・・・お願いだから。ルークこっちに来てくれ」
その懇願にも似た希望を伝えても、ルークは一向にそこから動かない。
「ガイ、俺。ガイのこと好きだ。」
こんな状況で一体何を言い出すのか。そんな事は今言わなくても、いつでも言える事だ
「ルーク・・・だったら頼むからこっちに来てくれ」
俺のことを好きだと言うなら、どうか此方に来てくれ。
そこはとても危なくて、落ちたら絶対に助かったりしないんだ
「ガイ・・・俺、そっちにいけないんだよ。」
まるで、如何し様もないんだとでも、言うようにルークは諦めにも似た微笑を浮かべる
「どうして・・・!」
こちらにこれないと言う、ルークに僅かながらの焦燥感を感じて、声を荒げる
その瞬間
俺とルークを繋いでいた大地に亀裂が走っていく
それなのに、ルークは困ったように笑う。笑っている場合なんかじゃない。
そんな所にいたら、死んでしまう。だからこっちに早く。
「愛してる、ガイ。でも、そっちには行けない」
そう言って、ガイを目の前にしてルークは落ちていく
「駄目だ!!!」
必死に駆け寄って、ルークの手を掴んだ。俺の手一つで繋がっているルークの命
早く、早く、引き上げなければ
そう、思ってもどうにも腕が上がらない
どうしてだ。何で、引き上げられない。
「・・・ガイ。無理なんだ。」
必死に俺はお前を助けようとしているのに、どうして無理だと決め付ける。
俺は、お前を救うんだ
「ガイ・・・・お前が望まないから、俺はそちらには行けないんだよ」
目を見張る。その瞬間緩んだ手
繋がれていた手は離れ、ルークの体は深い底へと堕ちて行く
「ルークッ!!!!!!!!」
ルークの体は真っ暗な深淵へと沈んだ
「・・・・夢・・・?」
荒い呼吸、止まらぬ動悸
「そんな・・まさか!!!」
必死に、違う違うと小さく呟いて、起こした自分の体を震える手できつく抱き締めた
「どうした・・・ガイ?」
声を聞いて気付く。
そうだった、今日はルークと相部屋になっていたのだ。あんな声を出してしまったら、目も覚ましてしまうだろう。
でも、そんな事すらも気付かなかった。夢の出来事のショックが大きすぎて
「ガイ、泣いてるのか・・・」
自分のベッドから出てルークは俺に近づき、ベッドに乗る
ぎしりと、簡易なベッドのスプリングが軋む
俯いたまま、俺は何も言えずにいた
夢の中で、俺はお前を救わなかった。その意識が頭を擡げて離れないのだ。
何も言えない
ふわりと、体を包む温もり。震える俺の体をルークが抱き締めていた。
俺の涙を指の腹で拭う
暖かい体。冷たい指。
ルークはこんなにも優しいのに、俺は手を離したのだ。
告げられた言葉に驚いて離したんじゃない。その言葉に自分の思いを自覚していたからこそ、離したのだ。
それでも、その行為自体を否定したかった。
「ガイ、気にするな・・・・」
その言葉を聞いて、俺の涙は止まらなくなった。
ルークの指す言葉が何を意味しているのか理解してしまったから。
それでも、縋り付きたかった。ルークに。他の誰でもない。ルーク自身に。
ルークでないと駄目なのだ。
「・・・・・ルーク」
すまない。と謝罪の言葉は胸の中で消えるけれど、どうか届いていますように
シーツを強く握り締め、ルークの胸に顔を押し付け、声を出さずに泣いた
今この状態ならルークの顔を見なくてすむ
きっと彼は笑っているだろう。夢の中と同じ様に。
倒錯する感情
望む想いと裏腹の行動。俺は手を取り損ねた