目の前で崩れ落ちる体


とうしてだ。どうして、お前が、そんな事をする。





「俺は、俺の事しか考えていなかった・・・・?」



倒れ散る俺とはまた色の違う朱が雨に濡れて少し暗い赤に変る


まるで、俺と同じ色に変ったその髪を更に染めているのは


倒れる体から流れる血液だ





「っ・・・!」その鉄の匂いと、赤の広がる世界に体が震えた



俺がレプリカだと罵った奴は今目の前で臥している
そんなレプリカであるあいつが壊れたように言ったのは、自分の存在の意味だった














そうだ、俺は何も知らない。

己が居なくなってから、あの鳥籠の様な場所で奴がどの様に育ったのかも
あいつがどれだけ、ヴァンの事を慕っていたのかも





どれだけ、苦しんでいたのかも






そう、俺は何も知らない。

















俺がヴァンの志を聞き、自分自身で決め付き従った道のはずだ。



そして俺が、協力を為したからレプリカであるこいつは生まれてきた



(望んでなどいなかった・・・ただ、創られた。意思など無かった・・・)






もしレプリカが居なかったら
本当なら、アクゼリュスでの事柄も俺が起こしているはずなのだ



知っていたくせに、止めれないでいたのに
何も知らずにいたレプリカをただ、責めて、哂った



操られて、どうしようもないのに
俺はただ、罵る事しか考えなかった




自分の不甲斐なさをただ、こいつにぶつけた八つ当たりでしかない























目の前に広がる赤が面積を広げていく



赤が、雨に混じり朱に変わっていくのに、あいつの纏う朱は更に赤を増す







駆け寄って必死に治療する奴等にも容赦なく雨は降り注いで、その頬を、体を、冷やしていく






(こいつが、こうなったのは、誰のせいだ)



(そうだ、俺のせいだ)



(無知なのは俺の方じゃないか)

ただ、知っていると高を括って、嘲笑っては、実のところ何も知らなかった






(お前は、どれだけ・・・苦しんだ・・・)




自分自身が纏う黒と赤の衣はただ、雨を吸って黒を増しているだけなのに


倒れて顔を真っ青にしているあいつの白い衣は、自分から流れ出す赤を吸って染まっていく


髪のように鮮やかなアカに






















痛い




どうして、こんなにも痛むのか

俺は、知らない間にじくじくと痛んでいる胸の辺りの衣をぎゅっと掴んでいた




熱い、とても




あいつをじっと見据える、俺の瞼が燃える様に熱い










俺を押さえ込みながら声を張り上げて叫んだあいつの言葉が頭の中に反響して止まない





「お前が居たせいで、俺は造られたんだ!拒否権なんか無かった!ただ、造られた!!!」


「俺がお前の居場所を奪ったんだろ・・・?なら返すから・・・・」


「だから、俺の居場所を奪ったお前も、俺に返してくれよ」











なぁ、アッシュ。教えてくれないか。俺は人間じゃないのか?















「っく・・・」





雨を降らす事で暗く澱む空を見上げ、目を瞑る
頬を伝う雨水に混じる温もりなど、俺は知らぬ






ぎゅっ、と衣を握り締める力を強めて、必死に堪えてみても
胸を刺すような痛みは更に増すだけ













この酷く胸を締め付ける痛みは何だ
こんなにも、酷く哀しいものを俺は感じたことなど無い!!




























少年の願いは虚空に響く。
無知だったと知るには聊か遅過ぎた
彼は知った。だが彼の悲しみは未だに知ることが出来なかった。
彼の持つ悲しみが余りにも深すぎたから